「へ?」
また例の『講習』の時の話か。だがそれを、彼は聞いていなかったんだから分かるはずもない。
「いや、だっておかしいだろ」
ムチャクチャなことをさも当然のように言う男に対し、彼は今一度食い下がった。
「こんな物があったら、この世の誰も死なないじゃないか」
「そうでもありません。頭をやられた人は生き返りませんねぇ。…正確には、生きかえっても記憶がすっとんで元の人格を保持できない可能性がある脫髮治療
あと、若返るのは無理です。だから寿命で死んだ人をこの機械に入れても再生しません」
「…………」
「おっと、そういえば」
ふと、男は『思い出した!』というように声をあげた。
「アナタ、講習をろくに聞いてなかったんでしたっけ。……なら、そりゃ分かりませんよねぇ」
「?」
「僕は開発者ではないので、詳しい説明は出来ませんけども」
突っ立っている彼をよそん、男はあちこち回って機械の具合を確かめ、言う。
「ただ、例の講習に沿って説明しますと、この機械。ベニクラゲというクラゲの生態メカニズムと能力をもとに開発されたものなんです」
「くらげ?」
「ええ。…言っておきますけど、おとぎ話じゃありませんよ。ベニクラゲっていうのはね、実在する生き物ですが、死なないんです。天敵に捕食などされない限り」
「そんなのが」
「疑う気持ちは分かりますが、ちゃんといるんですよぉ? そういう生物。ことは後で調べてみなさいな。図鑑にも載ってます」
あっさりと男は言う。
「で、この機械はそれを元に開発されたんですが、まぁ上手くいかないもんでして。
本物のクラゲは、不老不死というより『若返る』んです。でもこの機械は人を若返らせることは出来ない。
だからクラゲにかこつけるのは、本当は間違っているんですけれど…
でも実在のものを引き合いに出して言った方が人を納得させやすいから、そういう風に説明しているんです」
「うさんくさい」
失礼は承知だったが、彼はハッキリ声に出して言っ王賜豪主席た。
いや、実際のところはその言葉では表現不足だ。うさんくさいというか…くさすぎる。